今回は私が使用しているマイクロフォーサーズ用マクロレンズ「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」を紹介します。
2013年にキヤノンのAPS-C一眼レフの二桁機と並行しE-M5を導入。その後の2014年の春に購入して手放さずに使っているレンズです。
最近のオリンパスのレンズというと、F1.2の単焦点やF2.8通しズーム、シンクロ手ぶれ補正のF4など、PROシリーズのレンズが何かと話題です。
この「M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro」は初代OM-D(E-M5)登場の後で発売された2012年のレンズ。
PROシリーズと同様に防滴防塵ではありますが、PROシリーズには含まれていません。
新品の販売価格は5万円弱と特に高価なレンズではありませんが、マクロとしても優秀でありながら、35mmフルサイズ換算の120mm相当の中望遠単焦点レンズとしても使用できる懐の広さを持っています。
苦手なシーンもあるものの、手ごろな価格でありながら描写力(解像力)も非常に優れており、一部では「神レンズ」とも言われるほどです。
それでは作例を交えながらレビューしていきましょう。
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マクロレンズとは
マクロレンズとは撮影する被写体をイメージセンサー(撮影素子)に投影した際、1/2から実物大サイズで撮影することができるようになっています。
一般的なレンズはピントをしっかり合わせて描写するには、レンズ(正確にはイメージセンサー)から被写体まで、ある程度は距離をとる必要があります。
しかし、マクロレンズではピントを合わせる事ができるイメージセンサーからの最短距離(最短撮影距離)が短く、最短距離付近からでも高画質を得られるような設計になっています。
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroは等倍1:1での撮影が可能で、さらに画角が2倍。
花や虫などの撮影にも重宝されるレンズではありますが、それ以外にも普段私たちが普段見落としがちな「小さなものたち」の世界を目の前に映し出す事ができます。
ED 60mm F2.8 Macroのワーキングディスタンスと最短撮影距離
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroのピントを合わせる事ができる最短撮影距離(イメージセンサーから被写体の最短距離)は0.19mです。
マイクロフォーサーズは最短撮影距離が短いレンズも多くあり、20cm前後であれば特に珍しい数値ではありません。
しかし、60mm(35mmフルサイズ換算の120mm相当)と言う画角が加わって、最も被写体に近づいた時に表示される撮影範囲は画角20度で17mm×13mmとなっており、2cmにも満たない大きさの被写体を画面いっぱいに撮影する事ができます。
上の写真はワーキングディスタンスの実験として、最短撮影距離で花のシベに焦点を合わせた状態のレンズと被写体間の距離を撮影したものです。
別売の専用フードを取り付けた場合、こちらの写真のように長さが延長されますので、本当にフードの先ギリギリまで寄せる事ができることになります。
このフードは一度装備すればスライドさせるだけで使用できます。フードの堅牢性という意味では一般的な脱着式のレンズフードに劣りますが、カメラバッグ収納には全く場所を取らないため、移動時に非常に便利です。
ちなみにオリンパスの大三元レンズのM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROでも、同様のギミックが採用されています。
この状態で、実際にカメラの背面モニターを確認するとこのような状態で表示されます。
上の最短撮影距離テストで実際に撮影した画像がこちらです。
屋内ですので、ISOは高めに設定しておりますが花の蘂が大きく撮影できます。
等倍1:1から無限遠での撮影が可能なレンズですが、画角は2倍と圧倒的。
マイクロフォーサーズのような小型センサーはボケが少ないと言われますが、マクロでは絞り開放の被写界深度(ピントの合う距離)が非常に浅くなるため、逆にマイクロフォーサーズの被写界深度の深さが強みとなります。
特にOM-Dシリーズではボディに強力な手ぶれ補正がついているため、手持ちによるマクロ撮影が可能です。
とはいえ、等倍撮影でピントをギリギリのラインで追い込むのであれば、下のような三脚とスライダーが欲しいところではあります。
手持ちで行くなら、マニュアルモードでシャッター速度を早めに設定し、連写で複数枚撮影し、その中から適切なコマを選ぶと楽です。
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M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroのサイズや操作感
レンズのサイズは缶コーヒーのショート缶より少し長い程度の46mm径。大柄のなカメラに取り付けるとちょっと細いイメージですが、PEN-FやE-M5、E-M10の小型OM-Dシリーズであればバランスが良い感じです。
重量は185gと軽いため、カメラバッグの隅に差し込んで持って行きやすいレンズです。
通常のレンズとの違いは、レンズの根元近くに「フォーカスリミットスイッチ」と現在の倍率とその時点での最短撮影距離を表示する小窓があること。
60mm F2.8 Macroのレンズの特性として、無限遠から0.19mまでとピントの選択肢が非常に幅広くなっています。
遠くのものにピントを合わせた後、手元の被写体に変更する際など、瞬時にAF(オートフォーカス)を決める事が難しく、ピントが合うまでの時間が非常に長くなってしまいます。
それを解決するため、被写体との距離をカメラに直接教える事ができる「フォーカスリミットスイッチ」というダイヤルがついています。
慣れるまで少し操作し辛いスイッチですが、このダイヤルを回す事で一気にピント位置を任意のエリアまで誘導・固定する事ができます。
ちなみにこのスイッチの操作は2本指で摘んで回すのではなく、親指の腹で押すように回すのがコツです。
選択しているピント位置での撮影距離も隣の距離指標に表示されますので、最初は見ていて楽しいですね。
また、マニュアルフォーカスやピントの調整時に使用するピントリングも幅が広く、しっとりとした操作感で操作しやすくなっています。
防滴防塵仕様のため、シーリングされている点も森などで安心して使用できるネイチャーマクロとしてポイントが高いですね。
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroでの作例
レンズ購入時の2014年ごろから撮ってきた写真を使って、ワーキングディスタンスごとに紹介してみましょう。
等倍付近でのマクロ撮影
まずはマクロレンズの醍醐味でもある接写。
等倍付近での撮影サンプルを何点かあげてみましょう。
みなさんのマクロ撮影というと、まず思いつくのが「花」の撮影ではないでしょうか。
雨の日、チューリップの花弁についた水滴を横浜市の公園で撮影。
深めの純正フードと防滴仕様のため、多少は雨水がついても安心で前玉まで濡れない点が嬉しい。
花に並んで虫もマクロ撮影ではポピュラーな被写体。
公園のベンチで見つけた指先ほどの小さなクモを撮影。
絞り開放の接写であれば、ボケ量が少ないと言われるマイクロフォーサーズでもピントの合う幅は2mmほど。
一円玉を2枚重ねた厚さが3mmですので、その被写界深度の浅さが分かります。
通常は開放よりも絞って撮影する事が多い条件ですが、この日は曇天でシャッタースピードを優先し、初代E-M5の手持ちで撮影。
新しいE-M1 Mark2ならボディの手ぶれ補正と高感度、連写機能も格段にアップされ、さらに追い込みやすくなっています。
また、被写体全体をシャープに写すなら、E-M1以降に搭載された被写界深度合成も有効です。
朝露のついたスギナ(つくし)。前後の丸ボケが美しくファンタジックな雰囲気を楽しむ。
マクロというと小さいものを鮮明に描写するイメージが強いところですが、カリカリの描写だけでなく、ボケを活かした撮影も得意。
林の中で撮影。光を意識すると被写体だけを強調する表現もより効果的になります。
中距離でのマクロ撮影
初夏、四万十川の河川敷で見つけたカワトンボの一種。
上の写真をトリミングしてみました。
ひたすら寄るだけでなく、少し引いた場所から大きく撮れるのも、このレンズの強み。
驚かせて逃げてしまわないよう少し離れた位置からトンボを撮影。
中望遠域の35mm換算120mm相当と言う画角が活きる距離でもあります。
春、雪解けの小路に顔を出した「ふきのとう」。妻の出身エリアでは「ばっけ」とも呼ぶそうです。
カリカリのシャープな描写だけではなく、産毛など柔らかな質感が表現できるところも魅力です。
120mm単焦点として風景やスナップ撮影
ボディはPENやE-M10など、コンパクトなカメラ。
それに軽量コンパクトな単焦点レンズを2、3本カバンに入れ散歩しながらスナップを考えている方に向けて、マクロ以外の描写も紹介しましょう。
若干ピンボケ気味ですが、曇天に撮影した東川町(北海道)にある某公園の噴水の1コマ。
こういったシーンでは少しボケがざわついて煩いかな?
横浜市関内付近の歩道橋から夜景スナップ。
立体感やボケを優先するのであれば、45mm F1.2PROやF1.8が良いのですが、中望遠スナップ用の単焦点としてもなかなか優秀。
手持ちでシャッター速度を稼ぐため開放気味で撮りましたが、できればもう少し絞りたかった。
現行機であれば鬼の手ぶれ補正でF5.6くらいでも撮れそうです。
小諸城址懐古園の桜2014年春。曇天の中の散歩。
この時は北海道からの里帰りの道すがら、東京在住時代から利用させてもらっている佐久の宿に滞在。
数日前に購入したM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro縛りで色々とテストしていました。
特に有名スポットではないのですが、北海道のとある農道にある坂道です。
ロードムービーのポスターのような雰囲気にHDR風の LUT(アートフィルターのようなプリセット)を当ててみました。
このレンズでスナップ撮影するなら、少し絞ってパンフォーカス気味に撮影した時の方が、解像力が最大化されて個人的には好みです。
こちらは先ほどの写真を2倍にトリミングしたもの。
このレンズで撮影した写真を高解像度モニターや等倍で鑑賞してみると驚かされるのは、1600万画素のカメラでありながら、道の脇に咲いている小さな花、飛んでいるトンボまでもしっかりと描写されてる解像力です。
現行のOM-Dの上位シリーズであればセンサーの解像度も2000万画素に増えており、ハイレゾショットなどの機能も使用できるため、更に精細な描写が可能です。
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 MacroはオリンパスのF2.8通しのPROシリーズが発表される前に発売されたレンズではありますが、決まった時の解像感はPROレンズに迫ります。
こちらは太陽が傾く頃に望遠レンズとして少し多めに絞って撮影。
これ以上絞ると回折で解像力は落ちるため、光芒を出したいなどの意図がなければパンフォーカスはこの辺りが最良のイメージ。
2012年当時のマイクロフォーサーズカメラE-M5(1600万画素)と5万円以下の単焦点レンズM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro。
120mm相当の画角を利用し、望遠レンズとして撮影しています。
E-M5でも手ぶれ補正は強力ですので、手持ち風景写真でも十分に使えます。
こちらは最近、夕方の買い物帰りに漁港の駐車場で撮影したツーリング風のスナップ。
水平を気にせず迫力を優先。路面ギリギリで前ボケの演出。
レタッチで消せるレベルで気にならない程度ですが、逆光で露出オーバー気味に撮影すると縦方向に若干フレアが発生しています。
朝靄の丘の景色。
ZEROコーティングもされており、風景写真でも十分に使用できますが、絞りがF8を超えたあたりから少し解説で若干描写が甘くなります。
また、PROシリーズに比べると縦方向に少しフレアが出やすいかと思います。
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroのスペック
レンズ仕様・スペック
焦点距離 60mm(35mm判換算120mm相当) 最大口径比/最小口径比 F2.8/F22 レンズ構成 10群13枚(EDレンズ、HRレンズ2枚、E-HRレンズ) 防滴処理 保護等級1級(IPX1):弊社の防滴カメラと組み合わせたときに防滴性能を発揮します。
防塵設計。画角 20° AF方式 ハイスピードイメージャAF(MSC) 最短撮影距離 0.19m 最大撮影倍率 1.0倍(35mm判換算 2.0倍相当) 最近接撮影範囲 17 x 13mm 絞り羽枚数 7枚(円形絞り) フィルターサイズ Ø46mm マウント規格 マイクロフォーサーズシステム規格 大きさ 最大径×長さ Ø56 x 82mm 質量 185g 主な同梱品 レンズキャップ LC-46、レンズリアキャップ LR-2、取扱説明書、保証書
総評
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroはマクロだけでなく、中望遠のスナップ、ポートレートなど幅広く使用できるコストパフォーマンスに優れたレンズです。
少し絞り込んだ際のスナップ撮影時の描写も侮れません。
メリット
・等倍で120mm相当の圧倒的な接写能力と解像力。
・パンフォーカスでのスナップ時の解像力
・マクロ、風景、スナップなど幅広く使える汎用性
・フォーカスリミットスイッチの利便性
・圧倒的コストパフォーマンス
デメリット
・苦手なシーンは太陽などの強力な光源が映り込む際のフレアの処理。
・被写体と背景との距離が十分でない状態や中距離域で少し絞った状態でボケが決まらず少し煩い。
・フレアは撮影後のレタッチや意識してコントロールすればカバーできますが、ポートレート向け単焦点F1.2やF1.8に比べるとボケを活かしたスナップなどは苦手。
・見た目が少し頼りない。
まとめ
マイクロフォーサーズ、特にボディ内手ぶれ補正が強力なオリンパス機を使用されている方のマクロレンズ選びに。
また、キットレンズなどの次に購入する単焦点レンズの1本としてマクロを検討されている方にオススメです。
屋内での物撮影にはもちろん。ペット写真などにも良いでしょう。
アウトドアでも活躍できる防滴防塵性能を備えているレンズですが、プロレンズシリーズと比べて価格も安く。
是非使ってもらいたいレンズです。
それでは、楽しいフォトライフを。