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フルサイズカメラでなくてもコンテストなどで評価される写真は撮影できるの?

春の農地を包む朝霧

 

カメラに興味を持ち始め、APS-Cやフォーサーズセンサーのカメラを購入して写真を楽しんでいると、どうしてもフルサイズセンサーのカメラについての情報が気になってくると思います。資金不足などでフルサイズセンサーに移行できなかったりすると、特に羨ましく思えたりするものです。

人気撮影スポットで古いカメラやAPS-C、マイクロフォーサーズ(4/3)などのカメラを使っていると、稀に一部の心無いカメラ愛好家から鼻で笑われたり、「フルサイズ以外はアマチュアの遊び」「所詮は…」「見るに堪えない画質」などと、意味のわからないマウント発言をされ蔑まれることもあります。

とても残念なことに、それが原因で写真から遠ざかってしまったり、機材面での引け目を感じコンテストをなどに応募するのを諦めたりする方もいらっしゃるようです。

しかし、そんなことで写真を撮る楽しみを捨ててしまうのは本当にもったいない事です。

最新の高性能なフルサイズセンサーのカメラに比べ、APS-Cやマイクロフォーサーズセンサーを搭載するカメラでは暗所や星空など、シビアなコンディションでの撮影や仕上げの難易度は上がってしまいます。
それでもしっかりと撮影して不足部分はレタッチで補ってあげることで、例え10年以上古いAPS-Cなどのカメラであっても、評価される作品を作ることは可能です。

 

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フルサイズセンサーでなくても大丈夫な理由

まず大切なことですが、フルサイズセンサーのカメラを使うことで得られる写真のクオリティーと、作品としての評価される写真のクオリティーは異なることを理解しなければなりません。

最近のカメラ業界をみていると、以前にも増してフルサイズセンサーの高画素機が全盛となっています。
雑誌のフォトコンテストなどの結果をみていると、フルサイズカメラに大口径レンズを使っている方の割合が随分と増えている印象です。
現在のカメラメーカーのメインターゲットとなるユーザー(カメラにお金を注ぎ込む層)もフルサイズ機を選ぶことが多くなっています。

また、富士フィルム、ペンタックス、OMデジタルソリューションズ(オリンパス)を除く、各社の上級カメラ機種が概ねフルサイズセンサーを主軸にしています。
その関係で誌上やメーカー主催のフォトコンに応募するような上位ユーザーの多くが、フルサイズのセンサーカメラを利用する傾向がより多くなる印象です。

しかし、フルサイズセンサーのカメラを使っているからと言って、必ず良い写真が撮れるということではありません。
世界で評価されるアート写真やSNSなどで人気のある全てが、必ずしもフルサイズセンサーのカメラで撮影されているわけではないのです。

確かにフルサイズセンサーのカメラやレンズは高額である反面、小型のセンサーと比較して光学的なサイズにも余裕があり高性能です。
そのため暗所でのノイズや階調表現に優れており、撮影時に同じように撮影した際には高画質の写真が撮影できるメリットがあります。
しかし、それは一部の特殊な撮影を除いて、スマートフォンやA4プリントで作品を見比べて、皆が簡単に見分けられるような大差ではありません。

高精細なモニターで詳しい人が注意してみればというレベルであって、マウント発言をされる人が言うように写真のクオリティに絶対的な差がある訳ではないのです。

カメラ以外のものでもそうですが、高額ブランドの商品を所有すると庶民的なユーザーに対してマウントを取り、自己顕示欲を満たそうとする方は少なからず存在します。

それは腕時計や自動車、オートバイなどでもよく見られるものです。

例えば「時計を買うならスイス時計」「バイクはハーレー」「自動車は欧州車」で、国産ユーザーは何も分かっていないと語る人と同じです。

実際には国産の安価なクオーツ腕時計であっても問題なく作動しますし、軽スポーツカーでも楽しく走ることができる車はたくさんあります。
0→100km/h加速が約3秒のポルシェ911 ターボであっても、0→100km/h加速が約13秒の軽スポーツであってもドライビングを楽しむことができる事と変わりはないのです。

軽自動車はエンジンが小さくパワーに余裕がないため加速性能は劣り、ボディーサイズも小さいため積載できる荷物の量にも制限があります。
それは車の規格としての一面であって、日本の狭い山道のワインディングでも気軽に走れる良さもまたその車の楽しさであったりします。

 

フルサイズセンサーの優位性(メリット)について

APS-Cやマイクロフォーサーズでも良い写真が撮れるなら、「わざわざフルサイズのカメラを入手する意味はないのか」と思われる人も多いでしょう。

それでは何故、実力を伴った上級者の方の多くもフルサイズセンサーのカメラを購入するのかというと、実際に撮影した写真データを作品を仕上げる際に余裕があること。
また、少しでも作品の描写などのクオリティを向上させて、作品を良くすることができるからです。
それはRAWだけでなく、撮って出しのJPEGを含めて言えることです。

まず、カメラが同世代であることが前提ですが、センサーサイズが大きいことによる優位性は

  • 大きなセンサーサイズにより余裕を持って高画素化が可能。
  • 1画素のセンサーに対する面積の余裕から、光学的に暗部で取り込める光の量に余裕がある(暗所ノイズが少ない)。
  • センサーサイズからくるボケ量の増加(ボケからパンフォーカスまでの表現の多様さ)。
  • ダイナミックレンジが広い(フィルム時代でいうラチチュード、明るい部分から暗い部分までの再現可能な幅が広く諧調表現の優位性がある)。
  • 高画素による光の描写の表現力の拡張。

わかりやすい部分だけでも、フルサイズにはそれ以下のセンサーに対して上記のようなアドバンテージがあげられます。

同じカメラマンが同じ場所・時間に、複数のセンサーサイズのカメラで写真を撮影したとします。
その場合、撮影されたデータを高解像度のディスプレイで等倍で比較してみた際、APS-Cやマイクロフォーサーズセンサーで撮影した画像に対して、フルサイズセンサーにフラッグシップクラスのレンズで撮影した方が、階調表現やダイナミックレンジなどについては概ね優れているデータを入手することができるのです。

ただ、これらのスペックは「一般の方が日常生活の中で写真を撮影する場合に必要か」というと、実は体感できるほどのメリットはありません。
むしろ狭い住宅街をベンツやフェラーリで走るようなもので、一般の方に対する威圧感もあり、レンズやボディの重さやサイズが荷物になったり、値段の関係で普段使いに気を遣うこともあると思います。

高画素などはプリントした際の大伸ばしに対する耐性などもありますが、特に展示会などに出品しない限り、A3以上のサイズでプリントを行う機会も少ないはずです。
主な被写体が星空や長時間露光(長いシャター時間)の夜景ならフルサイズのメリットは大きいですが、全ての人が星景写真を撮影するわけでもありませんし、全てにおいてボケの量優先で写真を撮影するわけではありません。

しかし、撮影者がある程度の撮影技術を獲得し、より作品を作り込んでいくようになってくると、撮って出しのJPEGが持つ階調表現力や撮影したRAWデータの余裕がアドバンテージと感じる瞬間が出てきます。

つまりAPS-Cやマイクロフォーサーズで撮影したデータを極限まで現像で突き詰めていくより、フルサイズで撮影したRAWデータを調整する方が画質も破綻せず、イメージした自分の作品に仕上げやすいのです。
そこまでシビアに追求することは少ないですが、風景などで暗所ノイズやハイライトでギリギリまで妥協点を探る必要がなくなるので、上級者にとっても非常に助かるものでしょう。

また、一部の機種においては最新のフルサイズ機でありながら画素は2000万画素に満たないスペックで、代わりに常用可能なISO感度が102400と常軌を逸した高感度で撮影できる特殊なカメラもあり、そういった用途の為に購入する方もいるようです。

これはたくさんの自動車で荷物を運ぶとき、軽トラックで何度も往復するよりも8tトラックでまとめて運んだほうが効率が良いことや、高速道路をバイクでクルージングするなら、250ccのバイクより大排気量のバイクの方が楽であるようなものです。

もちろんいくらフルサイズセンサーのカメラであっても、下手な人が撮影すれば高画素・高画質の下手写真が大量生産されるだけです。
逆にスマートフォンのカメラであっても、普段から広告やポートレートなど生業とするプロ写真家が撮影すれば、階調は劣っても目を見張る写真が撮影されることでしょう。

 

 

本当にフルサイズでなくても良い写真が撮れるのか

そんなことを言っても、本当にAPS-Cやマイクロフォーサーズのカメラでもコンテスト入賞レベルの良い写真が撮れるのか疑問に感じていませんか。
「理論では分かったけれど、実際に評価された写真を見せてくれ」と言われる方がいるかもしれません。

そこで古いAPS-Cカメラやマイクロフォーサーズセンサーのカメラで、私自身が撮影した写真を海外の審査制写真共有サイトに評価してもらうことにしました。

実際にアップしたサイトは「1x.com」「One Eyeland」です。

両サイトともにファイルをアップロード後、ギャラリーに写真が公開されるためには、キュレーターの審査をクリアする必要のあるサイトです。
その審査も非常に厳しいことが有名で、国内でコンテストに入賞経験のあるハイアマチュアの方でさえ、非常に難易度が高く人によっては通過率が7%や5%と言われるレベルとなります。

実際にサイトに行ってギャラリーを眺めてみると、普段目にする写真とのクオリティの差に驚くでしょう。

このサイトでは、SNSの様に既存のフォロワーやファンの数で作品の評価が決まることはありません。
また、実際に写真をアップしても、世界レベルで通用するアート写真を見慣れた専門のキュレーターが1点ずつ公平に審査を行ないます。
適当に撮った写真をアップしたところで、ラッキーパンチで1点だけ公開されることはあっても、複数枚が簡単に掲載されることはありません。
もちろんアップされている写真の多くは、フラッグシップクラスのフルサイズセンサーカメラを使って撮影したものが多いといえます。

このサイトで複数の作品をオフィシャルギャラリーに掲載することができれば、ある程度は世界に通用する写真を撮影できていると言って間違いないでしょう。
そんな審査制サイトに2021年10月現在、旧世代のAPS-Cカメラやマイクロフォーサーズのカメラで撮影した写真で切り込んでみます。

 

 

実際に古いAPS-Cやマイクロフォーサーズカメラ作品が審査を通過

 

春の農地を包む朝霧

 

実際にアップした写真はこちらです。

春の農地を包む朝霧。
IOS100 F8 47mm 1/400

北海道東神楽町で撮影した早朝の風景です。
2012年、道内に転居してすぐに出会った景色でした。

実はこの撮影当時、デスクトップのPCを実家に置いてきたため、まともなPCとRAW現像ソフトを持っていませんでした。
低スペックのミニノートPC(Atom N270)は持っていまいたが、ストレージは16GBしかなかったのでRAW現像に対応できず、死蔵していた写真です。
ただ、撮影時に何とかこのシーンを残しておきたいと考えて撮影はしていたようで、運よく露出ブラケット撮影した複数枚のJPEG画像がありました。
これに懲りて同年の秋に札幌のApple Storeで、写真の処理用にiMac (21.5-inch, Mid 2011) を購入しています。

今回はRAWが残っていませんでしたので、その複数のブラケット写真をベースとし、HDR合成で暗部のノイズ除去の処理を行い不足するディテールを保管しています。
HDR合成というと、少し前に流行した3DCGのようなギラギラした写真を思い浮かべる方も多いのですが、RAWデータの持つ階調を再現するような自然な雰囲気で仕上げています。

1x.comに掲載。

 

晩秋の農地(美瑛町)

晩秋の農地
iso200 F10 102mm 1/50s

北海道美瑛町、同2012年の晩秋風景です。
こちらは通常のRAW現像です、背景の山々の雪、手前の農地に落ちた雲の影を活かすようにしています。
830万画素なので高画素機のような緻密な描写によるディテール表現ができないため、そこはハイパスを調整して対応。
少し色が濃いめに見えるのですが、実際の現像パラメーターとしての彩度やコントラストはほとんどアップしておらず、部位ごとのトーンを微調整して仕上げてあります。

こちらはONE EYELANDに掲載いただきました。

ちなみに47mmと102mmになっているのは最近のミラーレス一眼カメラと違って操作がアナログで、焦点距離がファインダー内にリアルタイム表示されない為です。
レンズのメモリで適当に100mmや50mm付近にセットして撮影。PCで確認するとExif情報が47mmや102mmだった感じですね。
どちらの写真もほぼノートリミングです。

機材は
ボディ:Canon EOS 20D(820万画素) 2004年発売
レンズ: TAMRON AF18-200mm F/3.5-6.3 (Model A14)(VC手ぶれ補正なしの高倍率ズームレンズ)

カメラ・レンズとも古い世代で、カメラもセンサーダスト除去や手振れ補正なし、ライブビュー機能すらない時代の1眼レフです。発売当時はキヤノンのハイアマチュア向けAPS-Cカメラで、現在の7Dシリーズの先祖に当たります。
名機とは言われますが、流石に現在もメインで使っている方は少ない年代のデジタルカメラになります。レンズも特に良いものではなく、今なら中古で1万円くらいで購入できる便利な高倍率ズームレンズ。
今では中古で2万円もあれば揃うセットですね。

また、下記の2点についてもマイクロフォーサーズの先代フラッグシップ「E-M1 markII」にて撮影した写真です。

 

 

 

Published on 1X
Published on 1X
「ONE EYELAND」と「1x」にて石鎚山の紅葉写真が掲載されました

10月6日になりますが、石鎚山の山頂の紅葉を撮影に行ってきました。 当日は幸い天気にも恵まれ、イメージに近い撮影を行うことができました。 帰宅後の現像についても、表現したい部分は再現することができたと ...

石鎚山の紅葉は「1x.com」「One Eyeland」ともに審査通過。

 

佐田の沈下橋の雪景色がONE EYELAND OFFICIAL SELECTION にて掲載されました

  2021年9月の末、写真作家として作品のレベル向上と活動を進めていこうと考え、海外の審査制写真サイト「ONE EYELAND」様にアカウントを作成してみました。 ONE EYELAND( ...

沈下橋に徐々に積もる雪の写真は「One Eyeland」のみ審査通過。

上記の写真で、「1x.com」「One Eyeland」にそれぞれ2枚ずつ審査に通過したことになります。
一定期間にアップロード数や同時に審査できる数が決まっているため、記事の執筆時にはまだまだ数は少ないですが、4枚審査が通ればビギナーズラックやマグレではないでしょう。

 

追記:

ちなみにその後も何点か審査通過しに2021年11月20日現在で、「1x.com」「One Eyeland」共に約10枚の作品が審査通過しています。
その全ての写真がAPS-Cかマイクロフォーサーズで撮影したものです。

中にはソニーの初代APS-Cミラーレス入門機NEX-3とキットレンズで撮影した写真もあります。

 

 

 

評価される写真を撮るための近道

実際に体験して貰うとわかりますが、センサーサイズによるメリットはあくまで画質(階調)や描写、撮影後のRAW現像における耐性などです。
コンテストの結果やSNSの「いいね(good)」など、実際の写真の良し悪しは最低限の画質が確保できれば、あとは主題や構成など画質とは違った部分で評価されることを忘れてはいけません。

特に写真を始めたばかりの初心者なら、基本的な技術を覚えて撮影で実践・経験を積むだけで、見違えるほど上達することが多いです。
また、スペックではなくデザイン重視でカメラを選んだ方が、撮影意欲があがって技術が伸びることだってあります。

気に入ったカメラがフルサイズだったり、余裕があってフルサイズセンサーのカメラに買い替えるなら特に問題はありませんが、周囲の言葉で無理をして高級機種に買い替える必要はありません。
まずは周囲の意見に振り回されず、純粋に撮影や作品作りを楽しんでいくことが良い写真を撮る近道になるでしょう。

勉強しながら経験を積んで行くうちに、自分自身が作品に求めているカメラの能力を見極める技術もついてきます。
それが分かったら、次は必要に応じて機材を追加していくと無駄なくレベルアップできるはずです。

 

 

 

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